シャーリのシトー会大修道院の廃墟は、パリ北方に位置するエルムノンヴィルの森の中央にあり、現在は野趣豊かな公園に囲まれている。
ルイ六世(1081-1137)によって創建されたこの大修道院は、中世を通してずっと人々の心に精神的な影響力を及ぼした。ルネサンス期には、イッポリート・デステ枢機卿(1509-1572)がイタリアから偉大な芸術家たちを招き、その中には、建築家のセバスティアーノ・セルリオ(1475-1554)や画家フランチェスコ・プリマツィオ(1504-1570)もいた。ちなみに、プリマツィオが聖マリア礼拝堂に描いたフレスコ画は、最近行われた修復によって過去の輝きを取り戻している。1737年になると、シャンティの大厩舎を建築したジャン・オベール(1680-1741)が、僧院の再建を担った。
フランス革命後、教会と回廊はかなりの部分が破壊され、残されたのは古典主義様式の巨大な館だけになる。19世紀になり、新しい所有者によってその部分が城として改築された。1902年、銀行家エドゥアール・アンドレ(1833-1894)の寡婦であるネリー・ジャックマール(1841-1912)がその城を購入し、世界各地から収集した芸術作品の一部を展示した。残りの収蔵品はパリの館に置かれたが、現在、オスマン通りにあるその建物はジャック・マール・アンドレ美術館となっている。1912年、ネリーはフランス学士院に全財産を遺贈。シャーリの広大な領地と美術品コレクションもその一部である。その中には、とりわけ貴重な収蔵品がある。ジヨット(1267頃—1337)の二枚の絵画を含むイタリア・プリミティフ(中世から初期ルネサンス期にかけてのシエナ、フィレンツェの画家たち)の絵画、そして、エルムノンヴィルの領主ジラルダン家によって収集されたジャン・ジャック・ルソー(1712-1778)にかかわりのある品々である。
水野尚『フランス 魅せる美 美は人を幸福にする』関西学院大学出版会2017年2月出版。
http://www.kgup.jp/book/b279487.html
とにかく綺麗な本を作りたい。そんなわがままな願いを実現したのが『フランス 魅せる美』です。
フランスに行く度に様々な美術館で美しい絵画を目にし、パリのうっとりとする街並に心を奪われます。そんな美を単に綺麗だと思うだけではなく、歴史的な変遷をたどり、知的に理解することで、より深く味わうことができます。
19世紀の作家ジェラール・ド・ネルヴァルが描いたヴァロワ地方は、パリの近郊にありながら、今でも豊かな自然の美を堪能させてくれます。本書の第5章「フランスの心臓 ヴァロワ地方」は、ネルヴァルに導かれたサンリス、シャーリ、エルムノンヴィル、シャンティイでの文学散策です。
美は本当に人を幸福にしてくれます。それは、おいしい物を食べるときの幸せ以上です。食べ物と違い、美は決してお腹一杯にはなりません。いくらでも次が欲しくなります。
フランスの美は人を魅了し、幸福にしてくれる。そうした体験を共有していただければ、こんなに嬉しいことはありません。